これで克服!術後のドレーン管理【1】

「ドレーンの管理って大変そう」
「ドレーンって難しそう」
「ドレーンとドレナージの違いは?」
「ドレーンって何で入れるの?」
ドレーン管理を苦手とする看護師は意外と多いものです。
手術後はそうでなくても観察しなければならないポイントはたくさんあるのにドレーンの種類もいっぱいあってもう何が何だか…
ドレーンが入っているというだけで拒絶反応を起こしていませんか?
・わからないことだらけだけど、怖くて先輩には聞けない新人さん!
・わからないけど今さら周りに聞けない中堅さん!
・後輩に聞かれて即答できなかったベテランさん!
あらゆる世代の看護師へ送る、基礎から応用までドレーン克服術のすべてをまとめました。

1・ドレーン管理
1-1【ドレーンの目的】
ドレーンは感染のコントロールや減圧を主な目的としています。目的によって三つに分類さ  れます。
①治療目的ドレーン
→脳脊髄液、空気、胆汁などを体外へ排出させ臓器障害が進行しないように各ドレーンが用いられます。
・水頭症に対する脳室ドレーン
・気胸に対する胸腔ドレーン
・閉塞性黄疸に対するPTCDやENBD
・腸閉塞に対するイレウス管
・水腎症に対する腎瘻ドレーン

②予防的ドレーン
→術後管理として予防的にドレーンを挿入します。
・心臓手術後の縦隔ドレーン
・肺手術後の胸腔ドレーン
・肝切除術後の右横隔膜下ドレーン
・胃切除後のウインスロー孔ドレーンS状結腸切除術後のダグラス窩ドレーン

③情報ドレーン
→予防的ドレーンと目的が重複する部分が多いです。
術後の出血や縫合不全を早期発見することを目的に挿入されます。
1-2【ドレナージとは】
ドレナージとは排液のことであり、血液・膿・浸出液・消化液などを体外に排出させるものです。このドレナージのために体内に挿入する管をドレーンといいます。

1-3【ドレーンの抜去時期】
ドレーンはその役割を終えたらできるだけ早期に抜去します。
全てのドレーンにおいて、その挿入部、ドレーンの接続部、ドレーンバックの排液口などから細菌が混入する危険性と隣り合わせです。これらの部位から体腔内に細菌が入り込むことを逆行性感染といいます。

①予防的ドレーンのメリット
・術後出血が早期に発見できる
・浸出液を排除できる
・縫合不全の際に再手術を回避できる
(縫合不全の発生頻度が高い手術の場合、予防的ドレーンがそのまま治療目的ドレーンとし   て使われることが多いのです。ドレーンが入っていないと再手術によってドレーンを挿入   しなければなりません。)

②予防的ドレーンのデメリット
・逆行性感染を起こす危険性が高い
・ドレーンの挿入に伴い痛みが続く
・ドレーン挿入部からの出血やヘルニアの危険性がある
・臓器を圧迫する恐れがある
・呼吸障害を起こす危険性がある
・体液を喪失する
・消毒などのケアが増加する
・入院日数の延長
・コストがかかる

※CDCのSSIガイドラインではドレーンはできるだけ入れないほうがよく、ドレーンを入れた際には可能な限り早期に抜去することが望ましいとされています。

○まとめ
・ドレナージとは体液などを一時的に体外へ排出するものです。
・ドレーンはその目的によって、治療的・予防的・情報の三つに分類されます。
・ドレーンは入っているだけで感染のリスクが高まります。

2・ドレーンの種類

2-1【チューブの種類】
使用法 名称 利点と特徴 欠点
フィルム型 開放式 ペンローズドレーンが
代表的 素材が柔らかいので患者への物理的な圧迫は少ない。 粘稠な排液では内腔が詰まりやすく洗浄しにくい。
チューブ型 閉鎖式 シンプル
ネラトン
デューブル
プリーツ など 洗浄や入れ替えが容易。
毛細血管現象を利用するために溝を付けた形になっている。
サンプ型 閉鎖式 2腔式のダブルルーメン
3腔式のトリプルルーメン 持続洗浄が可能。
外気を導入する穴と体液を排出する穴に分かれてい。
ブレイク型 閉鎖式 丸い形のラウンド
平たい形のフラット ドレナージ効率が高く、内腔を持たない形状なので詰まりにくい。

 
2-2【排液法による分類】
方法 利点 欠点
開放式 ドレーンの一端を切離開放したままで毛細血管現象を利用し、排液する。 ドレナージ効果が高い。 感染がおこりやすい。
半開放式 開放式にドレーンにパウチを装着したもの。 ドレナージ効果が高い。
感染がおこりにくい。 コストがかかる。
閉鎖式 ドレーンを貯留用のドレーンバッグなどにつなぎ、ドレーン内の陰圧を利用して排液する。 感染がおこりにくい。
ドレナージの圧を調整しやすい。
排液量の測定がしやすい。
排液の再主が容易である。 ドレーンが詰まりやすい。
ドレーンとバッグをつなぐ連結が必要になるため確実な固定が重要。
患者の行動が制限される。

3・ドレーンの挿入方法
大まかに分けると手術的に入れるものと経皮的・内視鏡的にいれるものがあります。

3-1【ドレーンの使用部位】
ドレーンの種類・使用部位 適応
脳室ドレーン 頭蓋内圧更新における治療
水頭症の治療
胸腔ドレーン 気胸・血胸の治療
肺切除後後
心嚢ドレーン 心タンポナーゼの治療
心臓手術後
胆管ドレーン 閉塞性黄疸の治療
胆道手術後
膵管チューブ 膵手術後
腹腔ドレーン 腹部手術の術後
腎瘻ドレーン 水腎症

3-2【ドレーンの原理】
①受動的なドレーン→外部からの力を利用しない方法
・毛細血管現象の利用
細い管の中では、液体面が管の表面張力などの作用で管外の液体面より上昇する現象を利   用します。
・サイフォンの原理
液体で隙間なく満たされた管を用いて大気圧の作用などを利用し、液体を一度高いところ   に上昇させてから低いところに移動させる仕組みを利用します。

②能動的なドレーン→吸引機に接続して陰圧をかける方法
・機械的な方法
胸腔ドレーンなどに用いる持続吸引機など
・バネの復元力を利用
J-VACドレナージシステム
・風船(バルーン)の収縮力を利用
SBバックなど
※排液が多く貯留すると吸引圧が低下するので、排液を随時除去することに注意が必要です。

○まとめ
ドレーンチューブは構造からいくつかの種類があります。
ドレーンには、開放式・半閉鎖式・閉鎖式があります。

 

これで克服!術後ドレーン管理【2】
ドレーンの原理が理解できたところで、次はその固定方法から排液管理までを説明いたします。

1・ドレーンの固定と管理
1-1【ドレーン閉塞の防止】
・ドレーンの挿入部位よりも低い位置に排液バックを置きます。
・ドレーンの固定がドレナージ(排液)の妨げとなる場合があるので注意が必要です
・ドレーンにねじれや屈曲、たるみがあったり、身体の下敷きになると閉塞の原因となります。

1-2【排泄の促進】
・ドレーンの詰まりを防止するために適切にミルキングを行います。
・排液が血性であったり、排液の中に凝血塊・フィブリンなどがみられる場合には特に閉塞が  おこりやすく、頻繁なミルキングが必要となります。

※ドレナージの種類や病態によってはミルキングが禁忌のものもありますので注意しましょ   う!

1-3【挿入部での感染予防】
・ドレーン挿入部に発赤・腫脹・熱感・疼痛などの感染兆候がないか観察します。
・ドレーン挿入部の消毒時は、挿入部から同心円を描くように外側へと行います。

1-4【逆行性感染の防止】
・排液が逆流すると感染の原因となります。排液バックはドレ―ン挿入部より高く持ち上げて  はいけません。
・ 移動時や体位交換時に一時的にドレーンを持ち上げるときには必ずクランプを行いましょう。
・排液バックは床に直接置かずに、ベッドに吊り下げたりスタンドなどを利用しましょう。
・排液バック交換時は清潔操作で行いましょう。

1-5【事故・自己抜去の防止】
・急性期
患者に、ドレーンがどこに・どのような目的で入っているのか説明しましょう。
術後せん妄による自己抜去の可能性がある場合には、家族に説明し同意を得たうえで抑制が  必要になることもあります。

・離床期
患者のADL拡大とともに事故抜去の可能性は高まりますが、看護師はそのことを危惧してADL  の拡大が妨げられることがないよう管理しましょう。
・逆流による感染防止のため排液バックはドレーン挿入部より高い位置に持ち上げないよう指  導しましょう。
・ベッドに戻った際の排液バックのつるし方なども併せて指導が必要です。
・初めのうちは必ず看護師が見守りましょう。
・動くことでテープがはがれたりすることがあるので、気づいた時にはすぐに知らせるよう説  明しましょう。

1-6【ドレーンの位置、種類の明確化】
・複数のドレーンが入っている場合にはバックにテープなどを貼り各々のドレーンの種類な   どを記入する工夫をしましょう。
・ドレーンの位置や種類を明確に把握できる工夫が必要です。

1-7【固定方法】
・ドレナージの効果を得るためには排液が常に流れやすいよう固定する必要があります。
・ADLにあわせた固定方法を工夫することは、ドレーン挿入部の痛みの軽減にもつながります。
・事故抜去に配慮した正しい固定方法を行いましょう。
・ドレーンの屈曲やドレナージ効果の減少を防ぐためにあまり強くテープを押し付けないよう  にしましょう。

○まとめ
ドレーンの仕組みと患者の病態に合わせた管理が必要です。
ドレーンは常に高いところから低いところへ流れるような固定を考えましょう。
誤抜去などの事故防止に努めましょう。

2・排液管理
2-1【観察ポイント】
①排液量
・ドレーン挿入位置や患者の病態により排液量は予測できます。排液量がそれらの予測と    大きく外れる場合には何かしらの異常と考えます。
・短時間で急激に排液量が増加した場合は生体変化のサインであるため、ほかのバイタル    サインと合わせて医師へ報告しましょう。

②性状
・排液の性状は、ドレーンの挿入位置や患者の病態により予測されます。
・通常は淡血性~漿液性に変化する排液が急に血性になったり、混濁したりしていないか    を経時的に観察する必要があります。
・浮遊物の有無などは感染兆候の視点からも重要なポイントです。

③粘度
・通常、排液の粘稠度は全身状態の改善(ドレーン挿入後の経過)とともにさらさらした    排液に変化します。

④におい
・排液のにおいが急に変化した場合には感染などのサインなので注意しましょう。

⑤全身状態の観察
・排液の量や性状と合わせて、患者のバイタルサイン・訴え・水分出納バランスなどから    患者の全身状態の把握も同時に行う必要があります。
・排液量が多い場合には脱水や電解質異常へ移行することも考慮します。
・血性の排液が続くときにはショックや貧血へ移行することも考慮します。
・排液の性状と合わせてバイタルサインや血液検査などを観察しましょう。

2-2【排液量の正常・異常】
①排液の減少、消失した場合の確認ポイント
・ドレーン挿入部
→ドレーンが抜けていないか・抜けかかっていないか・固定が強すぎないか
【対応】ガーゼなどの固定をはがして確認する。もし抜けが確認できたらすぐに挿入部をガ      ーゼで保護し、直ちに医師へ報告します。

・ドレーンルート部
→余分なたるみはないか・屈曲はないか・身体の下敷きになっていないか・閉塞しか      けていないか・ドレーンに破損部はないか
【対応】ルートを確認してミルキングを行う。裂孔などの破損部分が見つかった場合にはガ      ーゼで保護し、直ちに医師に報告します。

・クレンメ・三方活栓部
→クランプしたままになっていないか
【対応】開放されているか確認する

※これらの方法・対応でも排液がみられないときには完全に閉塞していることがあるため、医  師に報告します。

②排液量の増加
・排液量が多く、血性の場合には血管や臓器を傷つけていることが考えられるため、直     ちに医師に報告します。
・手術後では術後出血などが考えられるので、短時間に血性の排液が多量に出た場合に     は医師に報告をします。
・その他、目的としている排液以外のものが漏出している可能性があります。

②色・性状・においの異常
・創部またはドレーン挿入部が感染や縫合不全を起こしている可能性があります。
・目的としている排液以外のものが漏出している可能性があります。

2-2【基本的な排液の破棄方法】
・ドレーンの排液を廃棄する際にはスタンダードプリコーションに従い、グローブ・マス    ク・エプロンを着用します。
・血液・体液の飛散には十分注意しましょう。
・ドレーンのバックは頻繁に開放しないことが原則です。
・ドレーンの方法によっては排液の貯留がドレナージ効果を低下させることがあるので注    意が必要です。
・排液を破棄するにあたってドレーン部をクランプする必要があります。クランプ後は開    放したかどうかの確認を忘れずに行いましょう。

①ドレナージ吸引装置の使用手順と排液の破棄方法
・SBバック(住友ベークライト)

<使用開始時>
ⅰ排液ボトルの排液口を閉め、板クランプを閉じる。
ⅱ吸引ボトルのゴム球を押してバルーンを膨らませる。
(吸引ボトルの内側に就く程度)
ⅲYコネクター付チューブを集液ポートに接続する。
ⅳ板クランプを解除して吸引を開始する
<排液量の観察>
ⅴボトルを垂直において目盛りで排液量を測定する。
<排液の破棄>
ⅵ板クランプを閉じてボトルを傾けて排液口から排液を排出する。
ⅶ再吸引する場合は、排液口と蓋を別の消毒綿球で消毒し、板クランプを閉じたまま排液    口を閉じる。バルーンを膨らませ板クランプを解除する。

・J-VACドレナージシステム(ジョンソン・エンド・ジョンソン)

<使用開始時>
ⅰ閉創後、チューブをY型コネクターに接続する。リザーバー底部のフラップをカチッと    音がするまで前方・上方に折り曲げて吸引を開始する。
<排液量の観察方法>
ⅱ排出口を開け、リザーバーの中に空気を入れて全開にし、側面の目盛りで排液量を測定    する。

<排液の破棄方法>
ⅲリザーバーを傾けて排出口から排液を排出する。
(この製品は逆流防止弁がついているのでクランプは不要)
ⅳ再吸引の場合はリザーバーの親指マークに親指を合わせ、両サイドから押しつぶすよう    にしてロックする。
ⅴ底部のフラップを折り曲げて、ロックをより確実にする。
ⅵ排出口を消毒し、清潔に閉める。
ⅶ底部を今度は前方・上方に折り曲げ、ロックを解除し再吸引されているかを確認する。

○まとめ
・継時的に観察を行い、患者のサインを見逃さないようにしましょう。
・排液は、量・性状・粘度・においなどを観察します。
・廃液操作により起こり得る合併症に注意しましょう。

 

これで克服!術後ドレーン管理【3】
ドレーン管理の実際
1・頭部ドレーン
頭部ドレーンの役割
①術後、術野に残っている血腫や術後に溜まる血液の排出するため
②脳槽内に溜まったクモ膜下出血の血液を排出するため
③髄液の流通障害時に脳室内に溜まった髄液を排出するため

2・留置・挿入部位によるドレーンの種類
①硬膜外ドレーン
手術後最も頻繁に利用されるドレーン。硬膜外腔に留置されます。
②硬膜下ドレーン
硬膜とクモ膜との間に留置されます。
③脳槽ドレーン
クモ膜下腔が広くなって髄液がたまっている脳槽部に留置されます。
④脳室ドレーン
脳室内に挿入されたドレーン。→詳しくはこれで克服!術後ドレーン管理【4】参照
⑤スパイナルドレーン
頭部ドレーンではありませんが、クモ膜下出血例では血液交じりの髄液を排出する目的で腰    椎穿刺によるドレーン挿入を行うことがあります。

3・頭部ドレーンの管理
・硬膜外ドレーン・硬膜下ドレーン
自然排出とするため、排液バックはベッドの面あるいはベッドの下の位置にぶらさげて管     理をします。
髄液様の液が出て患者が頭痛を訴える場合にはクモ膜が裂けて髄液漏出している可能性     があります。
・チューブが閉塞している際には頭蓋内圧が上昇する、髄液漏れなどが起きて逆行性感染を誘    発することがあるため注意が必要です。
・脳槽ドレーンからは髄液が流れてくるので脳室ドレーンに似ていますが、脳槽は脳室ほど髄    液がたまらないので拍動はそれほど明瞭ではないことが多いです。
・髄液が流れすぎると低髄液圧症候群となるため圧の調節が重要です。

○まとめ
・頭部ドレーンはドレーンを留置する解剖学的位置により分類されています。
・頭部ドレーンは感染予防のためにすべて閉鎖式ドレーンを用います。
・頭蓋内圧を至適内圧にコントロールする必要があるので特に注意が必要です。

 

これで克服!術後ドレーンの管理【4】
1・脳室ドレーンとその管理
1-1【脳室とは】
脳室は大脳内にある空隙であるがここは水様透明な脳脊髄液で満たされています。左右の側脳室、正中の第Ⅲ脳室、テント下にある第Ⅳ脳室の合計4つの脳室があります。

1-2【脳脊髄液とは】
・水様透明
・1日に400ml~500ml程度生産される
・脳脊髄腔の容量は130ml~150ml

1-3【脳脊髄圧の正常値】
・圧
正常値 上昇 低下

60~200mmH2O 髄膜炎、脳腫瘍、頭蓋内出血静脈洞血栓、高二酸化炭素血症 脱水、外傷性髄液漏出、脳脊髄液減少症

・性状
正常 出血早期 出血6時間以降 感染兆候 細胞数増加
無色透明 血性 キサントクロミー 混濁 こまかい浮遊物

・生化学検査
正常値 増加 低下

蛋白
15~45mg/dl 炎症、頭蓋内出血、脳脊髄腫瘍、糖尿病、粘液水腫、外傷、鉛中毒、多発性硬化症

ブドウ糖
50~75mg/dl 髄膜炎、髄膜癌腫症、サルコイドーシス、神経梅毒

クロール
120~130mEq/l 蛋白が増加すると低下
結核性髄膜炎の初期には10mEq/l以下になる

・顕微鏡検査
細胞数の正常値 増加 考えられる疾患
1mm3中5個以内 単核球増加 結核性、ウイルス性、真菌性髄膜炎・髄膜癌腫症
多核球増加 化膿性髄膜炎・結核性、ウイルス性髄膜炎の初期・髄膜癌腫症・脳腫瘍
赤血球 外傷・脳出血・クモ膜下出血・出血性梗塞・脳腫瘍からの出血・traumatic tap
1-4【髄液の流れ】
左右の側脳室からモンロー孔→第Ⅲ脳室→中脳水道→第Ⅳ脳室→第Ⅳ脳室→正中のマジャンディ孔・左右のルシュカ孔→クモ膜下腔→脊髄および脳表のクモ膜下腔→静脈洞で吸収される。
この流れがどこかで滞ると髄液が異常に溜まって脳室が拡大し、最終的には頭蓋内圧が亢進します。このような状態を水頭症といいます。

・閉塞性水頭症→脳室内やモンロー孔、中脳水道、第Ⅲ、第Ⅳ脳室が腫瘍や出血、癒着、         奇形などで閉鎖して起こる→脳室ドレーンが適応されます。

・交通性水頭症→脳表のクモ膜下腔に出てからの流通障害で起こる
2・脳室ドレーンとは
脳実質を貫通して側脳室、あるいは第Ⅲ脳室に挿入されたドレーンのことをいいます。脳室内に溜まった髄液を体外に輩出する目的で留置され、これにより頭蓋内圧を調整し脳室の拡大を防ぐことができます。

2-1【脳室ドレーンのサイズ(シラスコン®)】
内径:1.4~3.0(mm)
外径:2.5~5.0(mm)
全長:30~100(cm)
先端部孔数:4~8

2-2【脳室ドレーンの管理】
頭部のドレーンは感染予防のため、すべて閉鎖式ドレーンが使用されます。脳室ドレーンはサイフォンシステムを使用し流出の圧を一定にします。閉塞性水頭症例では厳密な圧管理と流出量管理が必要になります。
重要なのは髄液の流出を適切に調整し、頭蓋内圧を至適圧内にコントロールする点です。

・髄液の流れが少ない→頭蓋内圧の亢進
・髄液の流れが多い→低髄液圧となって頭痛・悪心・嘔吐が発生
・髄液の流れが多すぎる→脳と硬膜の間、硬膜と頭蓋骨の間に隙間ができここに出血が
発生→硬膜下血腫、硬膜外血腫

2-3【脳室ドレーンの挿入】
脳室ドレーンは手術室で無菌的に挿入されます。
3・脳室ドレーン挿入中の管理と観察ポイント
3-1・設定圧の基準点
基準点(0点)の取り方
仰臥位では外耳孔の高さ、側面では正中線の高さで設定します。
レーザーポインターを用いると正確に設定できます。

3-2・観察ポイント
①ドレーンの基準点が定められたとおりになっているか
患者の体動などにより基準点がずれてしまうことがあります。こまめに観察をしましょ
う。
②髄液の拍動があるか
拍動の消失はドレーンの閉塞や屈曲、または抜けかかっていることなどが考えられます。
直ちに医師に報告しましょう。
③ドレーン刺入部に浸潤がないか、感染兆候がないか
通常、ドレーン刺入部は乾燥しています。刺入部が黄染していれば髄液漏出が疑われま
す。発赤・腫脹・疼痛・膿汁などがみられる場合は感染が疑われます。
④排液量とその性状の観察
短時間に急速に排液されていないか、色調の変化はないか、浮遊物の有無、混濁の有無
などを観察します。とくに急に血性になり急激に排液量が増加した場合には新たな出血
が疑われますので、直ちに医師に報告しましょう。
⑤患者の神経兆候に変化はないか
排液に変化が見られた場合には、意識レベル・バイタルサイン・瞳孔・麻痺などの観察
を行い、あわせて情報を伝えましょう。

3-3【ドレーン挿入中のトラブルと対策】
①髄液排出過多・減少
適切な排出量を調節できないと、髄液過剰排液や過少排液が生じて患者に重大な障害が
生じることがあります。髄液過剰排出では出血、脳ヘルニアやドレーン閉塞のリスクが   高まります。逆に過少排液では治療の目的が達せられません。
<対策>
脳室の虚脱やヘルニア予防のため、初期排液圧設定は15~20cmH2Oとし髄液の排液は最
小限にします。医師が画像や排液量、性状を見ながら設定を変更していきます。

②感染
ドレーン挿入中は常に感染のリスクと隣り合わせです。感染リスクはドレーン回路の交換
回数が多い、留置期間が長い、皮下トンネルが短い場合に助長されます。また穿刺部から
髄液が漏出した場合にも感染リスクは高くなります。
<対策>
感染予防のため、穿刺部位は無菌操作が必要です。同時に穿刺部位が乾燥しているか観察
をしましょう。回路の交換回数を最低限にする必要もあります。

③ドレーンシステムの接続
回路のフィルターが濡れて閉塞してしまうと、圧設定にかかわらず髄液がどんどん排出さ
れてしまいます。(サイフォン効果)過剰排出となり低頭蓋内圧となり新たな出血や意識障  害などが起こります。
<対策>
回路の接続が確実であるか確認します。患者の移動時、移動後はとくに接続やフィルター
の閉塞に注意が必要です。

④ドレーンの抜去
予期しない形でドレーンが抜去してしまうと病状の悪化や生命の危機につながります。
<対策>
ドレーンの固定をしっかり行います。ガーゼ上にさらにループを作り固定したり、頭部だ
けではなく頚部などにも固定することでより強固に固定できます。意識障害がある患者が
多いのでドレーンの自己抜去の可能性が高い場合には家族の同意を得たうえで抑制も必要  になります。

 

これで克服!術後ドレーン管理【5】
ドレーン管理の実際
1・腹腔ドレーン ①胃・小腸・大腸
1-1【腹腔ドレーンの選択及び管理】
・腹腔用に用いられるペンローズドレーンは情報ドレーンとして用いることが多い。自然の落下   圧差・腹圧・毛細血管現象などを利用することにより液体が排出されます。
・治療ドレーンは縫合不全や腹腔内膿瘍が改善するまで長期にわたりドレーンを留置して     おく必要があります。皮膚傷害や、固定方法・期間による表皮剥離、疼痛の原因となるため注   意が必要です。、
・通常、ドレーンは2週間ほどの留置で瘻孔が形成されます。それまでは再挿入が困難なため、   事故抜去されないよう十分な注意が必要です。

1-2【ドレーン留置目的】
ドレーン留置の目的は、術後出血・縫合不全・腹腔内膿瘍・膵液瘻に対する情報を得るも      のでありますが、トラブル発生時には抜去されずにそのまま治療ドレーンとして使われま    す。

1-3【ドレーン観察の注意点】
①排液の色調・におい
・ドレーンの排液は通常、漿液性もしくは淡血性です。
・鮮やかな赤い液体は活動性の出血、白濁した排液は感染もしくは経口摂取後の乳び、茶      色の排液は消化液の可能性があり、医師に報告が必要です。
・排液のにおいは消化液か便汁かどうかの判断の根拠となります。
②排液量
・排液量が急に増加した場合、排液の色調・においに注意し、変化があった場合にはバイ      タルサインをチェックし直ちに医師に報告が必要です。
・尿管損傷であれば大量の排液がみられるので直ちに医師に報告が必要です。
・排液量が急に減少した場合にはドレーンの屈曲・閉塞がないか、詰まりがないか確認し      ましょう。
③挿入部の皮膚
・ドレーン周囲の皮膚発赤があれば逆行性感染を疑います。
・膵液瘻では周囲にびらんがみられる場合があります。
・ドレーンの皮膚固定は絹糸および透明フィルム材がよいとされています。
・排液が減少しペンローズドレーンが短切された場合は安全ピンを中央にかけることで腹      腔内への迷入を防ぐことができます。
2・排液に異常をきたす胃・大腸手術の合併症
①術後出血
・術直後のドレーンは通常血液が混じります。出血が持続しているかどうかの判断が重要      であります。
②縫合不全
・縫合不全は通常、術後3日目ぐらいから発生することが多いです。食事開始とともにド      レーンの排液量の増加、腸内容・腸液または膿の有無を観察します。
・発熱がないか、ショック状態ではないか注意が必要です。
③膵液瘻
・初期の排液は水様透明ですが、脂肪組織を融解して感染を伴うようになると黄白色の排      液がみられ血液と反応すると濃い赤ワイン色となります。
・ドレーン挿入部周囲は発赤やびらんになることが多いです。
・排液中のアミラーゼは高値になり診断に役立ちます。
④腹腔内膿瘍
・腹腔内潰瘍は、消化管と交通がなければ通常術後7日以降に発生することが多いです。
・ドレーンから膿の排出がみられた場合、逆行性感染との鑑別が必要です。
⑤乳び
・乳び腹水は腹腔動脈周囲のリンパ管が損傷されるために生じます。
・術後早期は絶食となるので最初は透明なリンパ液がドレーンから排出されますが、食事
が開始されると排液が白濁し量も増加します。

○まとめ
・排液に異常がみられた際にはバイタルサインをチェックし、医師に報告しましょう。

 

これで克服!術後ドレーン管理【6】
ドレーン管理の実際
肝胆膵領域の手術は長時間で出血も多いことからSSIが高度に認められます。消化管手術と異な り、胆汁や膵液の漏出に対する管理も特徴的です。

1・腹腔ドレーン(肝・胆・膵)
1-1【肝切除術後のドレーン選択】
・ドレーンの挿入は後出血や胆汁漏の早期発見に有効です。
・チューブドレーンが用いられます。J-VACドレナージシステムなどの低圧持続吸引っドレー    ンが有効です。

1-2【観察ポイント】
①後出血
・後出血の可能性は48時間以内です。とくに8時間以内に多いので注意が必要です。
・排液が血性で1時間に100cc以上出るときには再手術が検討されます。
・とくに肝硬変の患者は出血を契機に肝不全になりやすいので要注意です。
・出血量だけではなくバイタルサインにも注意しましょう。
・低圧持続吸引の場合はミルキングも定期的に行います。
②胆汁漏
・ドレーンからの排液が胆汁で腹痛を訴える場合には胆汁性腹膜炎の疑いがあります。再手術    も考慮しなければならないので医師に報告しましょう。

1-3【ドレーン管理における注意点】
・排液の性状やドレーンの屈曲や閉塞がないか注意しましょう。
・バックやボトル内の排液が逆流しないように固定の位置や移動の際にも気を配ります。
1-4【術式別ドレーン観察ポイント】
術式 挿入位置 挿入目的 正常な排液 異常な排液 異常時の対応
肝切除術 右横隔膜下
ウィンスロー孔
肝切離面 出血や胆汁漏の有無 淡血性~漿液性 血性で1時間に100cc以上
膿汁性
胆汁 ・医師に報告
・排液が血性の場合は輸血・再手術の可能性
・排液量とバイタルサインチェック
・尿量に注意
胆嚢摘出術 胆嚢摘出部 出血や胆汁漏の有無 淡血性~漿液性 血性
胆汁
膿汁様 ・医師に報告
・バイタルサインのチェック
・排液量・性状の変化の確認
膵頭・十二指腸切除術 胆管空腸吻合部
膵空腸吻合部 出血や吻合部縫合不全の有無 淡血性~漿液性 血性
胆汁
白濁
腸液 ・医師に報告
・バイタルサインのチェック
・排液量・性状の変化の確認
・ドレーン周囲の皮膚発赤の有無確認
PTCD
(経皮経肝胆道ドレナージ術) 肝内胆管内
総胆管内 横断の軽減 胆汁性 血性
漿液性
排液が全くない
膿性 ・医師に報告
・バイタルサインのチェック
・ドレーンの屈曲・閉塞の有無確認
ENBD
(内視鏡的経鼻胆管ドレナージ術) 総胆管内
肝内胆管内 黄疸の軽減
術後胆汁漏の自然閉鎖
化膿性胆管炎に対するドレナージ 胆汁性 血性
漿液性
排液が全くない
膿性 ・医師に報告
・バイタルサインのチェック
・ドレーンの屈曲・閉塞の有無確認

 

これで克服!術後ドレーン管理【7】
胸腔ドレーンとその管理
1・胸腔ドレーンとは
・胸腔は胸郭の内腔であり、胸郭とは骨性胸郭・筋性胸郭・横隔膜で成り立っています。
・胸腔ドレーンは胸腔内にドレーンを挿入し陰圧で持続吸引し、余分な気体・液体を排出する    ものです。
・胸腔ドレーンの適応となる疾患
自然気胸
外傷性気胸
血胸
胸膜炎
心不全 など
・胸腔ドレーンの管理においては吸引圧の維持・皮下気腫・気漏の有無・感染防止・ドレーン    チューブの固定・閉塞の有無・排液の性状の変化などに注意します。

2・チェスト・ドレーン・バックの原理
●患者側ドレーンチューブ
ドレーンのねじれや屈曲。チューブ内に液体、フィブリンなどが固着していないか注意します。
●検体採取ポート
排出液・フィブリン・乳び・血液など、この部分から穿刺して採取します。
●ポンプ側ドレーンチューブ
吸引側に連結します。中央配管の吸引につなぎます。
●陽圧逃がし弁
胸腔内が陰圧から陽圧になった場合に圧を逃す弁がついています。
●逆流防止弁
胸腔内が急激に陰圧上昇となった場合に逆流防止するための弁がついています。
●水封室・水封室水位調節ポート
水は穿刺して入れます。多くの場合、前もって色素が入っているため水を入れると色のついた   水となります。気漏時には気泡が出現します(エアリーク)。気泡の出現は肺に大きな孔があ   り連続性に気漏があることを意味します。水封質の水面は吸気・呼気時に上下動します(呼吸   性移動)。
●排液ボトル
排液・フィブリン・血液などが貯留します。貯留槽がいっぱいにならないよう注意しましょう。
●吸引圧制御ボトル
気泡が持続的に出ていれば持続吸引が行われていることを意味します。
気泡がなければ吸引量以上に気漏が起きていることを意味します。

ドレーン ドレーン2

(参考画像:住友ベークライトより)

3・吸引圧の維持
・胸腔内は陰圧の閉鎖腔です。これが他のドレナージと大きく異なる点です。
・持続吸引圧は一般的に-12~-10cmH2Oで行われます。
・ドレーンチューブがU字に曲がっている場合にはチューブ内に貯留液が溜まり、持続吸引陰圧以  上の水柱となることがしばしばあります。この場合は陰圧にならず、場合によっては陽圧となる  ためチューブ内には液体を貯めないことが大切です。
・水封した水分が蒸発してしまうと設定吸引圧に保たれないことがあるので注意しましょう。時々、  水封質の水の補充を行います。

4・観察ポイント
①皮下気腫の有無
・ドレナージを行っているにもかかわらず、患者の皮膚・皮下組織に空気がたまり皮下気腫とな   ることがあります。皮下気腫自体に痛みはなく、患部を抑えると握雪感(雪を握ったようなぎ   ゅうぎゅうした感じ)や捻髪音(ぶつぶつと空気がはじける音)がします。
<原因>
→ドレーン先端の位置変更・ドレーンチューブの追加・ドレーン穿刺部の閉創・チューブ       の閉塞など
・気腫の端を点線で囲んで経過を見ることで、気腫の進行・退縮を知ることができます。

②気漏の有無
・いつまでもドレーンチューブから空気が漏れ出るようであれば、肺損傷の治癒遅延が考えられ   ます。(通常、気漏は長くても一週間以内です)
・ドレーンチューブの脇がしっかりと閉鎖しておらず隙間から空気が胸腔内に入り、その空気が   チューブに吸引されている場合に気漏と間違えることがあるので注意しましょう。
③ドレーンチューブ挿入部での感染
・とにかく清潔を保つことが重要です。
・挿入部の発赤・腫脹・浸出液の有無など観察を行います。
・ドレーンチューブと皮膚の間に創傷被覆材を充填する必要があることもあります。

④ドレーンチューブの固定
・固定時のドレーンチューブの位置がずれることがあるため、チューブにマーキングすることも   一つの方法です。胸部レントゲンでドレーンの先端部位の確認も必要となります。

⑤ドレーンチューブの閉塞の有無
・貯留液や血液でチューブが閉塞したときには正しい方法でミルキングを行いましょう。

⑥排液の性状変化の有無
・胸腔ドレーン留置後は排液の性状にも注意が必要です。
・漿液性液体であった排出液が膿性液体に変わった場合
逆行性感染、あるいは胸腔内に感染巣発症が疑われます。洗浄などの処置が必要になる場合    もあります。
・血液が漿液性液体に変わった場合
胸腔内の出血が止まった場合と胸腔内で血液が塊となり閉塞しかけている場合が考えられ    ます。これらを鑑別するには胸部レントゲンが有効です。

4・胸腔ドレーン抜去
①抜去時期
・血液性排液が血漿化し、1日の排液量が100ml以下となった時点が抜去の目安です。
・気胸の場合は水封室からの気漏がなくなり、持続吸引を中止して半日ほど様子を見ます。そし   て胸部レントゲンで肺虚脱がなければ抜去します。
(一方弁付き携帯バックに付け替えて歩行しても気漏がないことを確認してから抜去する場合    もあります)
②抜去時の呼吸法
・患者に2~3回深呼吸を行ってもらい、3回目の最大吸気時に一挙に抜去しただちにステープラ   ーなどで閉創します。抜去後は必ず胸部レントゲンで確認を行います。

○まとめ
・胸腔ドレナージの場合、胸腔内は陰圧で閉鎖腔であることが特徴的です。
・観察ポイントは、皮下気腫・気漏・挿入部の感染です。
・ドレーンは設置時からの変化に注意しましょう。(折れ曲がり、固定のずれ、移動、内腔閉塞   など)