妊娠性貧血の定義

妊娠性貧血の定義
妊娠性貧血の定義はHb11.0未満もしくはHt33%未満のものをいいます。

重症度の分類は軽症がHb11.0未満~10.0、中等度がHb10.0未満~9.0、重症がHb9.0未満です。

妊娠性貧血の原因

(1)循環血液量の増加によるもの

妊娠によって循環血液量は非妊時に比べ約1000ml増加します。

血球成分と血漿成分、共に増えますが特に血漿成分が著名に増えるため相対的に血色素量や赤血球量が減少し貧血となります。

循環血液量が最大になる妊娠32週頃~34週頃に一番Hbの値が低下し貧血が強くなる傾向があります。

なぜこのようなことが起こるかというと循環血液量を増やして胎盤にたくさんの血液を送るためと、血の濃度を下げることで血栓の予防をしていると考えられています。

また分娩時の出血に対応するために血液量が増えているためです。

(2)鉄の需要が増えたため

妊娠中は胎児が成長をするためにたくさんの鉄分が必要になります。

胎児への供給が優先されるため妊婦の鉄分が追いつかないと貧血になってしまいます。

妊娠性貧血は全妊婦の20%に見られるため指導により貧血を予防することが重要です。

妊娠性貧血の影響

(1)妊婦への影響

女性はもともと貧血を持っている人も多く、Hbが低くても慣れてしまい症状が現れにくい場合もあるので注意が必要です。

貧血による症状にはだるい、疲れやすい、息切れ、めまい、顔色が悪い、頭痛などがあり妊娠生活に大きく影響が出ることになります。

また、分娩時の出血に耐えられず、産後にさらに貧血が進みスムーズに育児に取り組めない可能性もあります。

(2)胎児への影響

妊婦より胎児に優先して鉄分供給がされるのでただちに影響が出ることはありませんが、胎児発育遅延や早産などのリスクがあります。

妊娠性貧血の治療

(1)食生活の改善

まずは食生活の改善が第一です。妊娠初期からの貧血指導、食事指導をおこない貧血を予防することが重要です。

(2)鉄剤の内服

妊娠性貧血は妊娠後期になるほど強くなるので、貧血になる前のHb11.5の段階で鉄剤を処方されることが多いです。

また、HbだけでなくHt、MCV、Feの値も評価に入れて治療が開始されます。

(3)鉄剤の注射

貧血が顕著に進んでいる場合や妊娠週数が分娩に近く治療を急ぐ場合などは点滴で鉄剤を補充することがあります。

貧血が進む妊婦への食事指導

アセスメントの視点

①貧血の値、程度、自覚症状の程度

②妊婦自身の妊娠性貧血の理解はどうか

③妊婦自身が今の自分の状態を理解できているか

④妊婦自身が貧血の症状を知っているか、または自分の症状を当てまめることができているか

⑤妊婦自身が貧血による胎児への影響を知っているか

⑥貧血を予防するためにはどうような食事を摂ればよいか知っているか

⑦貧血を改善するための行動を移せているか

⑧鉄剤の内服をきちんとおこなえているか

貧血が進む妊婦への食事指導の実際

食事指導
妊娠性貧血の改善で一番大切なことは食生活の改善です。

鉄分は2~3日多く摂取したからといってすぐに改善するものではありません。

分娩、授乳が終わり貧血が完全に改善するまでは続けなければいけません。

そのため、妊娠性貧血への理解と行動に移すための原動力に働きかける食事指導がもっとも大切です。

(1)妊娠性貧血の理解を促す

女性はもともと貧血の方もいるため症状が現れにくく病識に乏しい方も多いです。

また息切れや疲れやすさは妊娠によるものと安易に考えている人も多いです。

このような場合は、妊婦自身の貧血の状態の理解と貧血の病態の理解、貧血が続くことで起こるリスクを十分に理解してもらうことが大切です。

循環血液量の話しや血色素の話しは目に見えることではないので言葉だけだと理解しにくいものです。

妊婦自身の症状に合わせて絵や画像で視覚的にも分かりやすく伝えると効果的です。

また助産師自身が貧血によって分娩や産後に大変な思いをされた産婦のケアの経験があれば、その話しをしてあげることも大切です。

妊婦自身が身近に感じる話しをすることで自分自身の問題としてとらえてくれることが多いです。

(2)妊婦のライフスタイルに合わせた食事指導をおこなう

妊婦自身が今まで培ってきた生活スタイルや食事スタイルを変えることは大変です。やろうと思っていてもできないことが多いのが現状でしょう。

そのため、妊婦自身の生活スタイルや食事スタイルをできるだけ変えず無理のない貧血対策を伝えていくことが重要です。

例えば、料理があまり得意でない妊婦には鉄分強化がされている食品(ヨーグルトやシリアルなど)を取り入れてもらう、プルーンなど調理の必要のないものをすすめる。

料理が得意な人なら鉄分の多い食材を絵や表にして渡し、なるべく鉄分の多い食材を料理に使ってもらいます。

このとき、非ヘム鉄とヘム鉄など詳しい話しもできるだけ取り入れ興味をもってもらうことがポイントです。

吸収されやすい動物性たんぱく質に含まれるヘム鉄を積極的に摂るよう伝えます。

また、鉄分の吸収を阻害するものを伝えておきます。

コーヒーや緑茶に含まれるタンニン、ふすま、玄米など穀類の外皮に含まれるフィチン酸、ごぼう、さうまいも、きのこ類などに含まれる食物繊維は鉄分の吸収を阻害します。

そのため、これらを多く食べるときは鉄分を意識した食事とは30分以上はずらすよう指導します。

(3)鉄剤の服用は指示どうりきちんと飲みきるよう指導する

鉄剤の処方は2週間程度の長い期間処方されることが多いです。

毎食後服用が必要になるのできちんと服用、飲みきるよう指導をおこないます。

コンプライアンスがきちんと守られてこそ貧血が改善されるため理解、納得してもらうことが大切です。